ベートーヴェンのバイオリン協奏曲、昔から聴いてはいるが、いまひとつ、大好き、までは至らなかった。
聴いていると、なんだかドイツロマン主義の魔物に、頭から食い尽くされてしまうような気分になっていたからかもしれない。オディロン・ルドンの目玉巨人のような魔物に。
ムターさんがクルト・マズア/ニューヨークフィルと共演したこのCDは違った。優しい語りかける、ささやくような、撫でるような、透明な、柔らかなベートーヴェンだ。
出だしのティンパニの、そこはかさとなさから普通と違う。ムターさんの、吐息が聞えてくるような、心が滲みだしてくるような弦にもじんわりする。
安心して聴いていられる。溶け入ってしまう時間が増えた。