台湾で、先方の或る研究部長と夕飯を共にしたが、驚くほどに日本のことを知っていて、たじたじとなった。日本には年に2回程度しか来られない、というのにである。
彼の父親は戦後に台湾に来られたと言われていたから、国民党系なのだろうが、そのためなのか李登輝・前総統の行動やら趣向から、とても多くの日本理解があるようだ。李さんがいつごろ京都大学に学ばれたか、好きな俳句は何か、とか、「奥の細道」の足跡をたどっての旅をどのようにされた、とか。李さんの語る言葉は、それほどまでに尊ばれ、重きが置かれている。
彼自身もまた、最近は、李さんに倣って松島やら東北の地を訪れたという。行く先々で台湾人のグループに出会った、観光客のおおよそ三分の一が台湾人だった、とも言っていた。漱石や芭蕉を始めとする日本文学は、台湾でもかなり読まれている(中国語で)という。
帰り際、彼は二枚の古地図をお土産にくれた。日本の統治時代の台湾地図の複写版。僕の父親が戦前の台北生まれだということを、前回、僕が漏らしていたことを覚えていたかららしい。(僕のことを気に入ってくれているから、というわけではないだろう。)
いずれにせよ、日本のことを、ある側面からは敬いながら、奥の細道の足跡までたどり、相手を十分に理解分析しつつ信頼を築き、そして、自国の発展に心血注ぐ台湾人魂をそこに見た。
僕らも負けてはならんなあと思った。これからは中国や台湾だけでなく、インドや中近東にも、さらにさらに顧客を開拓していくだろう。相手の国の文化・歴史・文学をも良く知り、思考や行動原理まで理解し、歩み寄ること、そして信頼を築くこと。それが他国の人との付き合いの、全ての基本のような気がする。ビジネスはそれがあってのことだろう。