小津安二郎監督の「晩春」をDVDで観た。昭和24年、松竹。これまで京橋のフィルムセンターやら、8mmビデオ版やらで何回も見ているのだが、改めて良い映画だなあと思う。
学者の父、曾宮周吉(笠智衆さん)が娘をおもいやる、静かで、やさしい気持ち。
娘、紀子(原節子さん)が父をきづかう、これもやさしく、熱い気持ち。
そのふたつが絡み合い織りなすストーリー。
映画のなかで起きる大きなできごとはひとつぐらい。
娘を嫁がせるために父がうつ芝居(一世一代のうそ、なのかもしれない)。そして娘は嫁ぐ決心をする、それに尽きる。
能(観世流 杜若、恋之舞)を父娘で見ているうちに、父の知人の女性が別の席にいることを認め、嫉妬し俯き顔をゆがめる娘。
見合いをして相手を決めるが、意外に気に入ってしまっていて、それを友人に話す際の明るさ。
最後のシーン。誰もいない家でりんごを上手にむきあげたあと、両手の力がだらりと抜け俯く父。そして人の生が打ち寄せては返す波のシーンとなって終わる。
しみじみとなる。
※このほかの僕の楽しみは街角探検隊としてのもの。以下、備忘録として。
■湘南の江ノ島が弁天橋で繋がっていない風景。それまでも木造の桟橋はあったらしいが、台風で何度も流されたそうで、ちょうどそのころの撮影らしい
(コンクリート製の橋の工事は昭和23年秋からだそうである)。いまと異なる小島のたたずまいはとても美しい。
■銀座尾張町(四丁目)の交差点。教文館書店もみえる。山野楽器とか木村屋のビルは無い。
■厳本眞理さんのバイオリン独奏会のシーンもある(音とポスターだけだが)。於東京劇場。この日のプログラムは以下。
- フォーレのソナタ(奏鳴曲)ホ短調(と何とか読める、第2番Op.108のこと)
- バッハのシャコンヌ
- ヴィヴァルディの協奏曲イ短調
- シューベルトのアヴェマリア
- ヨアヒム・ラフの「ヴァイオリンとピアノのための6つの小品」から 「カヴァティーナ」 Op.85-3
- ネヴィンの蘇教(キリスト教のこと、どんな曲だろう)
- ウィニアフスキのスラブ舞曲第二番。
流れていた曲がラフのものだということは芸術を好まれる人のブログに記されていた。
このサイトで聴くこともできた。
大学時代のクラブ(MRKと呼ぶレコード鑑賞会)で厳本眞理弦楽四重奏団を招いてコンサートを企画したことも思い出した。
■電車で鎌倉から東京に向かうシーン。東京に入ったところで進行方向右手(南側)に巨大なガスタンクが見える。東京に入ったんだなあ、という感慨をもたらすシンボル的な存在として描かれているように思えるが、これはどこのガスタンクなのだろう?
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